仕事が終わると父と一緒に風呂屋に行く。決まったコースなので
着替えは持参しているがバスタオルは持っていない。
先に上がった圭は父の着替え用のシャツをバスタオル代わりに
使う。バスタオルはないけれど圭は父と風呂屋に行くのが好きだ。
それは必ず前の店でみつ豆を食べさせてくれるからだ。
店のおばさんも顔なじみで、圭ちゃんはお父さんが好きなんだねえ。
と笑う。圭はお父ちゃんっこだった。
だが後年、あの時バスタオル代わりに使ってしまって、かなり
濡れていたシャツを父は着たのだろうか。
一度も何も言わなかった父。圭は大人になった今でも悪い事をした
なあ。と気になって仕方がないのだ。
夕食は父の行きつけの料亭の座敷に上がる。
母たちがいなくなる度に来ているので圭もよく解っている。父は圭を
膝に乗せ美味しい料理を食べさせながら、自分は酒を飲むのである。
きれいに着飾った女性が三人入ってきて、踊ったり、父に酌をしたり
して笑いながら話をしている。圭の横にいた女性が、また奥さんが
出て行ったの?もう何度目かしらと言って笑う。父は笑顔で酒を
飲んでいる。彼女が圭に言った。今日から私が圭ちゃんのお母さん
だから一緒に帰ろうね。圭は大声で、違う!嫌だ!母ちゃんなんか
じゃない!怒りながら父の膝をたたいて泣くのだった。
解った解った、じゃあもう帰ろうか、おんぶをしてやろう。
圭は大きく暖かい父の背に負われて安心したように眠った。